透明性の向上

2021/9/30

1 意義

 透明性の向上は、敵対国の誤解や誤算によって生じ得る危機を未然に防ぐための信頼醸成措置(CBM)の一環として発展してきた。特に、大規模な軍事力が秘密のベールに包まれた状態で集中的に配備されていた冷戦期の欧州大陸では、透明性の欠如が互いの軍事行動に関する誤解や誤算を招き、軍事衝突が発生する危険性があった。これを回避するため、欧州では1950年代から、情報交換、相互通知、検証などを通じて互いの軍事行動に予測可能性を持たせる提案がなされ、1975年の欧州安全保障協力会議(CSCE)ヘルシンキ最終文書に結びついた。互いの秘密を減らし、より開かれた状態をつくるという透明性の向上はCBMの基本的な性質の一つである。  
 核兵器の軍備管理・軍縮においても、透明性の向上は、互いの誤解を防ぎ偶発的な核戦争を防止するという伝統的なCBMの一つとしての意義がある。また、冷戦時代に米ソ間で起きたような透明性の欠如によって生じる核軍備競争を避けるため、さらには、今後の核軍縮努力の進展を促すためにも、透明性の向上が必要と考えられている。また、核兵器国による核軍縮の進展の速度に対する非核兵器国の不満が強まる中で、核兵器不拡散条約(NPT)への信頼性を維持するためにも、核兵器国による透明性の向上は、核兵器国と非核兵器国との間の信頼醸成の観点からも重要な意義を有する。
 近年では、核軍備管理・軍縮上の義務を実施する に当たっての3原則(透明性の原則の他、削減された核兵器が再び増加しないような措置を施すという不可逆性の原則、条約の締約国が条約義務を履行しているかを確認できる検証可能性の原則)の一つとして位置づけられている。透明性なくしては、不可逆的に核兵器が削減されていることを検証することは困難であるので、これら3つの原則の中でも、透明性の原則は、他の2つの原則の基礎となる最も重要な原則であると言える。なお、核兵器の透明性には、(1)過去に関する透明性として、過去の核実験、核関連事故、核分裂性物質生産量、核兵器の生産量、(2)現在に関する透明性として、核分裂性物質保有量、核兵器保有数、核兵器能力、相互査察・データ交換、既存・閉鎖核関連施設、核軍縮努力、ドクトリン等様々な側面がある。

2 これまでのNPT運用検討会議での合意

 NPT運用検討プロセスにおいて、近年、透明性の重要性が認識されてきている。
 2000年のNPT運用検討会議の最終文書で合意された核軍縮に関する13の措置では、各国の核兵器能力に関する透明性の向上が、全ての核兵器国がとるべき措置の一つとして初めて合意された。また、2010年のNPT運用検討会議で合意された「行動計画」 では、透明性が、不可逆性及び検証可能性と並んで、核軍縮・不拡散上の義務を実施するに際しての3つの原則の一つとして初めて合意された(行動2)。また、核兵器国は、核兵器国としてとるべき具体的な核軍縮措置の進捗状況について、2014年の準備委員会において報告することが求められた(行動5)。さらに、全てのNPT締約国は、行動計画及びNPT第6条の実施について定期報告をすべきことが合意され(行動20)、CBMの一つとして、核兵器国は、可能な限り早急に行動計画の進捗状況に関する標準的な報告様式(フォーム)に合意し、国家安全保障を損なわないよう自発的に標準的な情報を提供するための適切な報告間隔を決定するよう奨励された(行動21)。これまでに、5核兵器国は、上記の行動5に基づき、2014年の準備委員会で自らが取っている核軍縮措置についての報告を実施した。また、2020年NPT運用検討会議プロセスでは2019年の準備委員会に英国及び中国が国別履行報告を提出した他、2021年にはロシアが改訂版を提出した。

3 核兵器国の透明性

 米国とロシアは、以前から二国間の戦略兵器削減条約(START)の枠組みで、条約上の計算ルールに基づいた戦略運搬手段及び核弾頭の配備数を公表していた。
 核兵器国による核兵器の数の公表については、2010年NPT運用検討会議以降、次のとおりの動きが見られた。米国は、「備蓄された核兵器の数」について、2010年NPT運用会議におけるクリントン国務長官(当時)の演説で、初めて5,113個と公表した。米国はその後も更新された情報を公表し、2015年NPT運用検討会議における演説でケリー国務長官(当時)は、4,717個であると公表した。また、同会議では、現有の備蓄核兵器数のみならず、過去20年間で米国が解体した核弾頭の数を10,251個、また、更に約2,500個の核弾頭が解体待ちであることを初めて公表した。この他、2021年7月の米国務省の発表によると、配備された戦略核弾頭数は米国が1,357、露が1,456となっている(2021年3月1日時点)。
 英国は、2010年10月の「戦略防衛・安全保障見直し(SDSR)」において、2020 年代半ばまでに、核弾頭の全体の備蓄の上限を225個 から180個まで削減するとともに、実戦用に利用可能な核弾頭数を160個から120個に削減すると発表し、2015年1月、120個への削減が完了したと発表した。2021年3月には、「競争的時代におけるグローバル・ブリテン:安全保障、防衛、開発及び外交政策の統合的見直し」において、安全保障環境を鑑みれば、NATOにおいて割り当てられた最小限の保有核弾頭数の上限を、180個以下に引き下げるとした2010年の意向はもはや不可能であり、260個以下の保有に移行すると発表した。
 フランスは、2008年3月、サルコジ大統領が核兵器国として初めて同国が保有する核弾頭の保有数を 300発以下であると公表した(2015年2月のオランド大統領、2019年2月のマクロン大統領の演説でも同じ数字が再確認された。)。

4 日本の取組

 日本は、上記1の意義を踏まえ、従来から軍備の透明性向上をCBMの一つとして重視してきた。核兵器に関する透明性の向上についても、従来からその重要性を指摘してきた。近年は、より行動指向的な核軍縮を目指すべきとの考えに基づいて、具体的かつ実際的な透明性の向上を訴えてきている。
 例えば、2010年のNPT運用会議で採択された行動計画に盛り込まれた上述の核兵器国による核軍縮の進捗状況に関する2014年の準備委員会での報告(行動5)や標準報告フォームの作成(行動21)は、日本の提案に基づくものである。
 2010年運用検討会議の合意を受けて、日本は、標準報告フォームの一案を作成し、オーストラリアと共に2010年9月に結成した軍縮・ 不拡散イニシアティブ(NPDI)の提案として、5核兵器国に提示した。同標準報告フォーム案は、2015年NPT運用会議に向けた2012年の第1回準備委員会においてNPDIの共同作業文書として提出した。その後もNPDIは、2014年の第3回準備委員会において、「透明性の向上」に関する共同作業文書を提出した。同作業文書は、透明性の原則は検証可能性及び不可逆性という核軍縮の他の2つの原則を支えるものであることを提唱し、また、核兵器国に対して標準報告フォームに合意した上で同フォームを用いて定期報告を行うことなどを求めた。
 現在進められている2020年NPT運用検討会議(2020年4月末から開催される予定だったが、新型コロナウイルス感染症の影響のため延期されている。)プロセスにおいては、いずれの準備委員会(2017年の第1回、2018年の第2回、2019年の第3回)においても、NPDIとして透明性の作業文書を提出し、また、日本自身の履行報告書を提出した。さらに、2015年NPT運用検討会議プロセスで提出してきた内容を踏襲しつつ、2020年NPT運用検討会議で締約国が報告する際の標準フォーム案に改良を加えつつ、2025年NPT運用検討会議プロセスにおける定期的な報告の実施を提案している。また、昨年我が国が国連総会に提出した核兵器廃絶決議(A/RES/75/71)においても、全ての国、特に核兵器国は、NPTの履行に関する頻繁かつ詳細な報告、及びこれら報告につき議論する機会を提供することを含め、透明性と相互信頼を高めるための具体的な措置を直ちに講じるよう求められている。
 2021年7月27日に行われた軍縮会議(CD)公式本会議では、CDにおける議題7(軍備の透明性)の下、分野別討論が行われ、小笠原大使より透明性向上に向けたステートメントを行った。
 このように、日本は、核兵器に関する透明性向上に積極的に取り組んでいる。