軍縮・不拡散教育

2021/10/5

1 総論

 軍縮・不拡散教育は、核兵器を含む様々な兵器による破壊的な作用がもたらす帰結、並びにそれら兵器の拡散の危険性及び対処の必要性について個人・社会の意識を向上させ、そのような知識及び実践を基礎として、国際安全保障や軍縮・不拡散問題への国、社会、個人の各レベルにおける具体的な取組の在り方について、自ら考え行動する能力(クリティカル・シンキング)を高めることを目的としている。このような教育は、世界的な軍縮・不拡散の着実な進展に向けた政府や市民社会の取組を支える基礎となる。
 国連における軍縮・不拡散教育の動きとしては、2000年にニューヨークで開催された国連軍縮諮問委員会において、現在の核軍縮の停滞を打破するためには、若い世代の教育から精力的に取り組む必要があるとの問題提起がなされた。これを踏まえて、同年に開催された第55回国連総会で、軍縮・不拡散教育の研究を行うよう事務局長に要請する決議案がコンセンサスで採択された。この決議に従い、2001年から軍縮・不拡散教育政府専門家グループ(日本の天野之弥在米大使館公使(当時)(前国際原子力機関(IAEA)事務局長)を含む10名の政府・NGO・研究所の専門家から構成)会合が計4回開催され、2002年8月、「軍縮・不拡散教育に関する報告書」が事務総長に提出され、事務総長から同年の国連総会に対して報告された。これ以降、同グループの作成した報告書にある軍縮・不拡散教育の活性化のための一連の勧告の実施を求める「軍縮・不拡散教育に関する研究」決議案が国連総会にて隔年でコンセンサス採択されている(日本は共同提案国)。
 日本政府は、核兵器使用の惨禍の実相や非人道性を国際社会及び将来の世代に継承していくことが人類に対する日本の責務であるとの認識の下、軍縮・不拡散教育を重視している。核兵器のない世界に向けた機運を維持・強化していく上で、市民社会の熱意と関心の維持は不可欠であり、被爆者の高齢化が進む中、軍縮・不拡散教育の促進において政府と市民社会との効果的な連携がますます求められている。
 軍縮・不拡散教育を活性化していくためには、政府、国際機関、NGO、メディアを含む市民社会といったそれぞれの主体が緊密にコミュニケーションを取っていくことが重要である。日本における市民社会の取組としては、被爆者証言イベントの開催や国内にとどまらない市民運動の展開、報道や特集番組を通じて核兵器を含む様々な兵器のもたらす影響を紹介し世論を喚起する活動等が行われている。唯一の戦争被爆国である日本における市民社会の活動は、国際的にも重要な意義を有する。日本政府としても、軍縮・不拡散外交の一環として、このような市民社会の取組と連携し、またはこれらの取組を支援してきている。日本は従来から、被爆の実相を国境と世代を越えて伝え、軍縮・不拡散教育の重要性を強調するための様々な取組として、「非核特使」や「ユース非核特使」の派遣、被爆証言の多言語化、各国若手外交官の被爆地研修等を通じた被爆の実相の伝達、NPT運用検討会議のプロセスにおける軍縮・不拡散教育に関する作業文書の提出やステートメントの実施、日本における国連軍縮会議開催への協力などをとってきている。

2 非核特使

 毎年8月、原爆が投下された広島・長崎では原爆死没者の慰霊と世界の平和のための平和記念(祈念)式典が開催されている。これらの式典や被爆者自身による被爆証言は、核兵器使用の惨禍の実相を後世に伝えることを通じて、核兵器の廃絶を訴えるために行われているものである。
 このような中、日本政府は、被爆者の方々が日本を代表して、様々な国際的な場面で、核兵器使用の悲惨さや非人道性、平和の大切さを世界に発信していただけるようにしたいとの考えから、「非核特使」制度を立ち上げた。この制度を通じて、それまで独自に又は政府を含む各種団体とともに被爆体験証言に取り組んでこられた被爆者の方々に、日本政府が「非核特使」として業務委嘱を行うことにより、証言を聞く人々に対する強いアピールになることはもちろん、これら活動に関する国内外への発進力を高めることにつながっている。
 一方、年月の経過に伴い被爆者の高齢化が進み、実体験に基づく被爆体験の将来世代への継承が課題となっている中、2013年4月にハーグで開催された軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)第6回外相会合において、岸田文雄外務大臣が「ユース非核特使」制度の立ち上げを表明した。「ユース非核特使」制度は、被爆者の高齢化が進む中、被爆の実相を国際社会及び将来に伝えるとの基本政策を今後とも効果的に継続するためには次世代(若者)への継承が必要との認識の下、概ね高校生以上30歳未満の若者が軍縮・不拡散分野における活動・研究等の成果を発表する際に「ユース非核特使」として委嘱することで活動を後押しするものである。2020年7月現在、「非核特使」は299名、「ユース非核特使」は405名に委嘱している。
 2021年8月12日に「若者と軍縮」をテーマに開催された軍縮会議(CD)公式本会議には、ユース非核特使として広島県出身の高校三年生がオンライン参加し、スピーチを行った。

3 被爆証言の多言語化

 2010年、長崎平和祈念式典挨拶で菅直人総理大臣が「核軍縮・核不拡散に向けた教育活動を世界に広げるため、長崎・広島両市や国連と連携し、被爆者の体験談を英語等外国語に翻訳し、各国に紹介する取組を進めたいと考えております。」と表明した。これを具体化するために、2011年、日本は、国立広島・長崎原爆死没者追悼平和祈念館から、英語、中国語、韓国語に翻訳された被爆体験記及び被爆証言映像の提供を受け、日本外務省及び国連のホームページに掲載した。また、これら被爆証言体験記の一部について、フランス語、スペイン語、ロシア語に翻訳し、日本外務省ホームページに掲載している。また、2012年8月、日本外務省及び国連大学が共催で開催した「軍縮・不拡散教育グローバル・フォーラム」に際して、在京大使館の協力を得て、英語、フランス語、ロシア語、オランダ語等13か国の言語に翻訳した被爆証言(証言者:節子・サーローさん)を、同フォーラム公式ブログ(http://blog。canpan。info/global-forum/)及び外務省ホームページ(http://www。mofa。go。jp/mofaj/gaiko/hibakusya/index。html)に掲載している。

4 軍縮・不拡散教育に関する作業文書の提出、共同ステートメントの実施等

 日本政府は、2010年NPT運用検討会議では、国連大学と共同で軍縮・不拡散教育に関する作業文書を提出した。また、42か国を代表して、軍縮・不拡散教育に関する共同ステートメントを行うなど、日本の率先した取組により、NPT運用検討会議の成果文書として初めて軍縮・不拡散教育に関する文言が盛り込まれた。2015年NPT運用検討会議プロセスでは、軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)のグループとして、軍縮・不拡散教育に関する共同作業文書を提出するとともに、日本が主導して、軍縮・不拡散共同ステートメント共同ステートメントを実施し、2015年運用検討会議では76か国の参加を得た。2020年NPT運用検討プロセスでは、2015年プロセスの作業を引き継ぎ、軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)のグループとして、軍縮・不拡散教育に関する共同作業文書を提出するとともに、2019年第3回準備委員会において、55か国を代表して軍縮・不拡散共同ステートメントを実施した。
 また、我が国が、毎年、国連総会第一委員会に提出している核廃絶決議においても、各国が軍縮・不拡散教育を推進することの重要性を述べてきているが、2019年の決議では、特に、若年層がクリティカル・シンキングを養い、核兵器使用をめぐる現実についての意識を高めることの重要性を念頭に、若年層の積極的な関与を促した。

5 海外原爆展の開催・支援

 核兵器の使用による被害の悲惨さと、これを繰り返してはならないという強い願いを諸外国の国民に伝える目的で、政府は、在外公館による共催や後援名義の付与等を通じ、広島市や長崎市を始めとするさまざまな団体が海外で開催する原爆展を支援してきている。海外原爆展の開催に際しては、多くの場合、「非核特使」や「ユース非核特使」の派遣を行い、核兵器使用の惨禍の実相を国際社会に対して発信している。また、政府間の共催の例として、2014年12月にウィーンで行われた第3回核兵器の人道上の影響に関する会議の機会に、オーストリア政府と在オーストリア日本大使館の共催で原爆展を開催した。更に、常設の原爆展として、国連本部(於:ニューヨーク)には、第2回国連軍縮特別総会(1982年6月)で決定した世界軍縮キャンペーンの一環として広島、長崎の被爆資料・写真パネル常設展が設置されている他、2011年11月には国連欧州本部(於:ジュネーブ)において、2015年11月には国連ウィーン本部において、広島市と長崎市が原爆常設展を開設し、現在も維持されている。