軍縮機関(軍縮会議,国連総会第一委員会)(2020年11月26日時点)
令和3年2月5日
国連における軍縮・不拡散
国連憲章第11条第1項は,国連総会の任務及び権限として,「軍備縮小及び軍備規制を律する原則」を明記した上で,これを含む国際の平和及び安全の維持についての協力に関する一般原則を審議することを掲げている。これを受け,同総会の下に軍縮・国際安全保障に関する議題を議論する第一委員会及び補助機関として特定の軍縮問題に焦点を当てて議論する国連軍縮委員会が置かれている。また,国際の平和と安全に第一義的な責任を負う機関である国連安全保障理事会においても,軍縮・不拡散問題が取り上げられてきている。さらに,国連事務総長の諮問機関であって,軍縮問題一般につき事務総長に直接助言を行う国連軍縮諮問委員会や,国連内にあって自律的な立場で軍縮分野の研究を行う国連軍縮研究所(UNIDIR)がある(なお,2017年以来,国連事務次長兼軍縮担当上級代表を中満泉氏が務めている。また,2018年5月にグテーレス国連事務総長が発表した国連軍縮アジェンダについては別項参照。)。
国連総会第一委員会
従来,国連総会の第一委員会においては,軍縮問題が,政治,安全保障,技術の問題等と一緒に議論されていたが,1978年の第1回国連軍縮特別総会は,「総会の第一委員会は,軍縮問題及び関連する国際安全保障問題のみを取り扱う」旨の決定を行い,以降第一委員会では主として軍縮・国際安全保障問題が議論されてきている。この委員会は,毎年秋の国連総会一般討論後,約4週間の会期で開催される。
第一委員会では毎年数多くの軍縮関連の決議が採択され,国際的な気運を高め,方向性を示す役割を果たしている。また,その動向は軍縮・不拡散の流れを見極める上で極めて重要である。日本も毎年,この分野における重要事項の決議案を提出している。
日本は,1994年以降毎年,核軍縮に関して日本が掲げる現実的かつ実践的アプローチに基づいた核廃絶のための決議案を国連総会に対して提出してきている。決議案の内容は,NPT運用検討会議のサイクルに合わせて5年ごとに大きく改定されており,1994年から1999年までは「究極的核廃絶」決議案を,2000年から2004年までは全面的核廃絶に至るまでの具体的道筋を示した「核兵器の全面的廃絶への道程」決議案を,2005年から2009年までは「核兵器の全面的廃絶への新たな決意」決議案を,2010年から2014年までは2010年NPT運用検討会議において10年ぶりに全会一致で最終文書が採択されたことを受け,従来に比べてより包括的で核兵器のない世界に向けた国際社会の具体的行動を求める「核兵器の全面的廃絶に向けた共同行動」決議案を,2015年から2018年までは「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意の下での共同行動」決議案を,それぞれ提出した。2019年は,国際的に厳しい安全保障環境が続く一方で,2017年に核兵器禁止条約が採択されるなど,核軍縮の進め方について核兵器国と非核兵器国のみならず,非核兵器国の間でも自らの置かれた安全保障環境に応じて立場の違いが顕在化する中で,2020年NPT運用検討会議を見据え,NPT体制の維持・強化に向けて核軍縮において国際社会が一致して直ちに取り組むべき行動の指針と未来志向の対話の重要性を強調する「核兵器のない世界に向けた共同行動の指針と未来志向の対話」決議を提出した。いずれの決議案もこれまで圧倒的支持を得て採択されてきている。2019年の決議は,160か国の賛成を得て国連総会で採択された。
また,日本は,小型武器問題が国際社会で本格的に提起された1995年からほぼ毎年,小型武器に関する決議案を南アフリカ及びコロンビアと共同で提出している。2019年の決議案は,小型武器のテロリスト等への移転を含む非合法な取引を根絶し,持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために,各国が国連小型武器行動計画を十分かつ効果的に実施することの重要性及び国際協力・支援等の必要性を強調するとともに,国連内に新たに小型武器の管理促進のための「人命を救う軍縮」基金(SALIENT fund)が設立されたことを歓迎する内容であり,国際社会が一丸となって小型武器問題に取り組む環境を醸成しようとするものである。本決議案は,第一委員会及び国連総会本会議においてコンセンサスで採択された。
第一委員会では毎年数多くの軍縮関連の決議が採択され,国際的な気運を高め,方向性を示す役割を果たしている。また,その動向は軍縮・不拡散の流れを見極める上で極めて重要である。日本も毎年,この分野における重要事項の決議案を提出している。
日本は,1994年以降毎年,核軍縮に関して日本が掲げる現実的かつ実践的アプローチに基づいた核廃絶のための決議案を国連総会に対して提出してきている。決議案の内容は,NPT運用検討会議のサイクルに合わせて5年ごとに大きく改定されており,1994年から1999年までは「究極的核廃絶」決議案を,2000年から2004年までは全面的核廃絶に至るまでの具体的道筋を示した「核兵器の全面的廃絶への道程」決議案を,2005年から2009年までは「核兵器の全面的廃絶への新たな決意」決議案を,2010年から2014年までは2010年NPT運用検討会議において10年ぶりに全会一致で最終文書が採択されたことを受け,従来に比べてより包括的で核兵器のない世界に向けた国際社会の具体的行動を求める「核兵器の全面的廃絶に向けた共同行動」決議案を,2015年から2018年までは「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意の下での共同行動」決議案を,それぞれ提出した。2019年は,国際的に厳しい安全保障環境が続く一方で,2017年に核兵器禁止条約が採択されるなど,核軍縮の進め方について核兵器国と非核兵器国のみならず,非核兵器国の間でも自らの置かれた安全保障環境に応じて立場の違いが顕在化する中で,2020年NPT運用検討会議を見据え,NPT体制の維持・強化に向けて核軍縮において国際社会が一致して直ちに取り組むべき行動の指針と未来志向の対話の重要性を強調する「核兵器のない世界に向けた共同行動の指針と未来志向の対話」決議を提出した。いずれの決議案もこれまで圧倒的支持を得て採択されてきている。2019年の決議は,160か国の賛成を得て国連総会で採択された。
また,日本は,小型武器問題が国際社会で本格的に提起された1995年からほぼ毎年,小型武器に関する決議案を南アフリカ及びコロンビアと共同で提出している。2019年の決議案は,小型武器のテロリスト等への移転を含む非合法な取引を根絶し,持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために,各国が国連小型武器行動計画を十分かつ効果的に実施することの重要性及び国際協力・支援等の必要性を強調するとともに,国連内に新たに小型武器の管理促進のための「人命を救う軍縮」基金(SALIENT fund)が設立されたことを歓迎する内容であり,国際社会が一丸となって小型武器問題に取り組む環境を醸成しようとするものである。本決議案は,第一委員会及び国連総会本会議においてコンセンサスで採択された。
軍縮会議(CD)
1 概要
軍縮会議(CD : Conference on Disarmament)は,唯一の多数国間軍縮交渉機関であり,ジュネーブに所在する。国連を中心とした第二次世界大戦後の軍縮努力がなかなか進展しない中,米国,英国,フランス,ソ連の4か国の合意により設置された「10か国軍縮委員会(1960‐61年)」を起源とし,「18か国軍縮委員会(1962‐68年)」,「軍縮委員会会議(1969‐78年)」を経て第1回国連軍縮特別総会(1978年)の決定により「軍縮委員会」が設置され,1984年に「軍縮会議」と名称を変更し現在に至っている。日本は,1969年に加盟した。
現在の加盟国は65か国であり,(1)米国を中心とする西側グループ(日本を含む25か国),(2)ロシアを中心とする東側グループ(6か国),(3)非同盟運動(NAM)諸国を中心とするG21グループ(33か国)及び(4)中国により構成される。これは東西ブロックが対峙していた冷戦期の対立構造を受け継いでいる。なお,1年の会期は24週間とされ,4週間ごとに議長国(6か国)がアルファベット順に入れ替わる。
CDはこれまで,前身の機関も含めて,核兵器不拡散条約(NPT,1968年),生物兵器禁止条約(BWC,1972年),化学兵器禁止条約(CWC,1993年),包括的核実験禁止条約(CTBT,1996年)等,重要な軍縮関連条約を作成したものの,CTBT以降,実質的交渉を行うことができていない。
(注)CTBTは1994 年からCDの核実験禁止特別委員会において交渉された。交渉は2年半にわたって行われたが,最終局面でインドの反対によってコンセンサスで条約案を採択することはできなかった。しかし,CTBT 成立に対する国際社会の圧倒的支持と期待を背景とし,オーストラリアが中心となって,CDで作成された同条約案を国連総会に提出し,1996 年9月,国連総会は圧倒的多数にて同条約を採択した。
2 作業計画をめぐる交渉
CDの意思決定はコンセンサスで行われることとなっているため,CDで合意された条約は実効的なものとなることが期待される一方でCDにおける合意の達成はより困難なものとなる。 CDでは,核軍縮,核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT),宇宙空間における軍備競争の防止(PAROS),消極的安全保証(NSAs)を始めとする事項が取り扱われているが,地域グループや国により各事項の優先度が異なることやコンセンサス原則があることから,僅かな例外を除いて,実質的交渉を行うために必要な年間の作業計画(programme of work)を採択できない状況が続いている。
最近では唯一2009年に作業計画が採択された。同作業計画は,FMCTについては交渉を,PARO及びNSAsについては実質的議論を,核軍縮については意見及び情報交換を行うことを決定した。しかし,採択直後から,パキスタンが作業計画を実際に実施するための日程や議長を定める「作業計画の実施決定」案の採択に反対したことから,一旦合意済みの作業計画を実際に実施することはできなかった。その後も,作業計画を採択できない状況が続いている。
このように作業計画を採択できず条約交渉を開始できない状況が続く中であっても,上記の4主要事項を含め少なくとも実質的議論は行うべきとの意見を踏まえ,最近では活動スケジュール(schedule of activities)の下で各事項について非公式な議論を行っている。同時に,作業計画に関する非公式作業部会も設置して,作業計画の合意の促進を図っている。
特に,2017年には,交渉マンデート(CDが軍縮に関する交渉を行うフォーラムとされていることによる。)を伴った作業計画についての共通基盤を特定するための今後(way ahead)に関する作業部会が設置され,CDの全ての議題について国際社会の取組及び優先事項を考慮しつつ,実質的作業に向けた課題等について議論し,CDとして今後のタイムテーブルに合意するとともに,作業部会議長による最終報告を採択した(CD/2097)。
2018年には,CDの議題に沿って5つの補助機関が設置され,それぞれに調整役が指名された。補助機関では専門家による発表を含め,各国により共通理解を探るための議論が行われ,その内容は補助機関ごとの報告書にまとめられた(CD/2138,CD/2139,CD/2140及びCD/2141)が,消極的安全保証について議論した補助機関4は,報告書の表現をめぐって各国の調整がつかず,報告書には合意できなかった。
2019年は,作業計画についての合意ができないまま,議長のイニシアティブで個別のテーマについての議論のみが行われた。
2020年は,同年の議長国6か国に前年最後の議長国及び翌年最初の議長国を加えた8か国(P6+2)が連携し,2018年と同様に5つの補助機関を設置するとともにCD機能の改善及び効率化についての非公式オープンエンド協議を実施することが目指され,2009年以来11年ぶりに作業計画に合意できる期待が高まったが,最終的に決定案の表現をめぐって関係国の意見が一致せず,採択は見送られた。その後,新型コロナウイルスの感染拡大を受け,会議を開催できない状態が続いている(2020年6月現在)。
前述のとおり,CDでは,作業計画の採択をめぐって,長年,加盟国の合意が得られないことを受け,手続規則の改定やCDの外での交渉の可能性等,膠着状態を打開する方法についても議論される一方,その時々の国際情勢を反映した議論が展開されている。近年,ますます厳しくなる国際安全保障環境も背景に,CDにおける議論でも各国が自国の立場を主張し合い,答弁の応酬が行われる場面も見られる。
2020年の会期では,円滑な議事運営を確保するためにP6+2が連携し,1年を通じた議事の調整や各地域グループとの協議に協力して対応している。
軍縮会議(CD : Conference on Disarmament)は,唯一の多数国間軍縮交渉機関であり,ジュネーブに所在する。国連を中心とした第二次世界大戦後の軍縮努力がなかなか進展しない中,米国,英国,フランス,ソ連の4か国の合意により設置された「10か国軍縮委員会(1960‐61年)」を起源とし,「18か国軍縮委員会(1962‐68年)」,「軍縮委員会会議(1969‐78年)」を経て第1回国連軍縮特別総会(1978年)の決定により「軍縮委員会」が設置され,1984年に「軍縮会議」と名称を変更し現在に至っている。日本は,1969年に加盟した。
現在の加盟国は65か国であり,(1)米国を中心とする西側グループ(日本を含む25か国),(2)ロシアを中心とする東側グループ(6か国),(3)非同盟運動(NAM)諸国を中心とするG21グループ(33か国)及び(4)中国により構成される。これは東西ブロックが対峙していた冷戦期の対立構造を受け継いでいる。なお,1年の会期は24週間とされ,4週間ごとに議長国(6か国)がアルファベット順に入れ替わる。
CDはこれまで,前身の機関も含めて,核兵器不拡散条約(NPT,1968年),生物兵器禁止条約(BWC,1972年),化学兵器禁止条約(CWC,1993年),包括的核実験禁止条約(CTBT,1996年)等,重要な軍縮関連条約を作成したものの,CTBT以降,実質的交渉を行うことができていない。
(注)CTBTは1994 年からCDの核実験禁止特別委員会において交渉された。交渉は2年半にわたって行われたが,最終局面でインドの反対によってコンセンサスで条約案を採択することはできなかった。しかし,CTBT 成立に対する国際社会の圧倒的支持と期待を背景とし,オーストラリアが中心となって,CDで作成された同条約案を国連総会に提出し,1996 年9月,国連総会は圧倒的多数にて同条約を採択した。
2 作業計画をめぐる交渉
CDの意思決定はコンセンサスで行われることとなっているため,CDで合意された条約は実効的なものとなることが期待される一方でCDにおける合意の達成はより困難なものとなる。 CDでは,核軍縮,核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT),宇宙空間における軍備競争の防止(PAROS),消極的安全保証(NSAs)を始めとする事項が取り扱われているが,地域グループや国により各事項の優先度が異なることやコンセンサス原則があることから,僅かな例外を除いて,実質的交渉を行うために必要な年間の作業計画(programme of work)を採択できない状況が続いている。
最近では唯一2009年に作業計画が採択された。同作業計画は,FMCTについては交渉を,PARO及びNSAsについては実質的議論を,核軍縮については意見及び情報交換を行うことを決定した。しかし,採択直後から,パキスタンが作業計画を実際に実施するための日程や議長を定める「作業計画の実施決定」案の採択に反対したことから,一旦合意済みの作業計画を実際に実施することはできなかった。その後も,作業計画を採択できない状況が続いている。
このように作業計画を採択できず条約交渉を開始できない状況が続く中であっても,上記の4主要事項を含め少なくとも実質的議論は行うべきとの意見を踏まえ,最近では活動スケジュール(schedule of activities)の下で各事項について非公式な議論を行っている。同時に,作業計画に関する非公式作業部会も設置して,作業計画の合意の促進を図っている。
特に,2017年には,交渉マンデート(CDが軍縮に関する交渉を行うフォーラムとされていることによる。)を伴った作業計画についての共通基盤を特定するための今後(way ahead)に関する作業部会が設置され,CDの全ての議題について国際社会の取組及び優先事項を考慮しつつ,実質的作業に向けた課題等について議論し,CDとして今後のタイムテーブルに合意するとともに,作業部会議長による最終報告を採択した(CD/2097)。
2018年には,CDの議題に沿って5つの補助機関が設置され,それぞれに調整役が指名された。補助機関では専門家による発表を含め,各国により共通理解を探るための議論が行われ,その内容は補助機関ごとの報告書にまとめられた(CD/2138,CD/2139,CD/2140及びCD/2141)が,消極的安全保証について議論した補助機関4は,報告書の表現をめぐって各国の調整がつかず,報告書には合意できなかった。
2019年は,作業計画についての合意ができないまま,議長のイニシアティブで個別のテーマについての議論のみが行われた。
2020年は,同年の議長国6か国に前年最後の議長国及び翌年最初の議長国を加えた8か国(P6+2)が連携し,2018年と同様に5つの補助機関を設置するとともにCD機能の改善及び効率化についての非公式オープンエンド協議を実施することが目指され,2009年以来11年ぶりに作業計画に合意できる期待が高まったが,最終的に決定案の表現をめぐって関係国の意見が一致せず,採択は見送られた。その後,新型コロナウイルスの感染拡大を受け,会議を開催できない状態が続いている(2020年6月現在)。
前述のとおり,CDでは,作業計画の採択をめぐって,長年,加盟国の合意が得られないことを受け,手続規則の改定やCDの外での交渉の可能性等,膠着状態を打開する方法についても議論される一方,その時々の国際情勢を反映した議論が展開されている。近年,ますます厳しくなる国際安全保障環境も背景に,CDにおける議論でも各国が自国の立場を主張し合い,答弁の応酬が行われる場面も見られる。
2020年の会期では,円滑な議事運営を確保するためにP6+2が連携し,1年を通じた議事の調整や各地域グループとの協議に協力して対応している。