通常兵器(武器貿易条約、国連小型武器行動計画、国連軍備登録制度他)

2021/10/1

1 総論

 通常兵器とは、一般に大量破壊兵器以外の武器を意味し、地雷、戦車、軍艦、戦闘機、大砲、ミサイルから、けん銃などの小型武器まで多岐にわたる。通常兵器の問題は、各国の安全保障に密接に関わるのみならず、人道・開発など様々な分野に影響を与えている。これらの問題について国際社会で行われている取組には、信頼醸成措置と国際的な基準・規範の作成、これら基準・規範に基づく協力・支援の活動が挙げられる。
 通常兵器の過大な蓄積は地域の不安定につながることから、国際社会は、通常兵器の国際的な移譲、軍備の保有などの透明性を向上させ、それにより地域や国際社会における国家間の信頼を醸成し、各国による過度の軍備の蓄積を防止しようとしてきた。国連軍備登録制度や国連軍事支出報告制度がこれに当たる。
 国際的な基準・規範の作成としては、人道上の懸念のある特定の通常兵器の使用などを禁止する条約や各国による取組の方向性を示す政治文書の作成がある。特定通常兵器使用禁止制限条約は、特定の兵器がもたらす人道上の懸念に対処するため、その使用などを禁止または制限する条約である。
 対人地雷禁止条約やクラスター弾に関する条約は、これら兵器の使用及び保有などを禁止する条約である。国連小型武器行動計画は、紛争で実際に多くの一般市民を殺傷し、「事実上の大量破壊兵器」と呼ばれる小型武器について、各国が実施すべき取組を網羅した政治文書である。これらの条約や政治文書の実施には、対人地雷やクラスター弾を含む不発弾の除去・廃棄や、非合法な小型武器の除去・廃棄も含まれる。
 通常兵器に関する国際的な基準・規範に基づく協力・支援は重要であり、日本はこのような分野においても積極的な活動を行っている。小型武器、対人地雷やクラスター弾を含む不発弾により影響を受けた国々に対し、現地の人々と共に現場の状況に即した小型武器の管理向上や、不発弾の除去、回収、廃棄の支援を行っている。
 2014年に発効した武器貿易条約(ATT)は、通常兵器の「責任ある移譲」を確保するため、通常兵器全般について信頼醸成措置に止まらず各国による国際移転そのものを法的拘束力のある形で各国が管理する枠組の構築を目指すものである。この条約により、国際社会における通常兵器の国際貿易の管理が強化され、国際社会の平和と安定に寄与することが期待されている。

2 小型武器

2-1 小型武器問題の背景と国際的取組
 紛争や犯罪で主な武器として使用され、実際に殺傷している人数が最も多い武器は小型武器であり、このため小型武器は「事実上の大量破壊兵器」と呼ばれている(国連小型武器政府専門家パネルの報告書によれば、「小型武器」は、兵士一人で携帯、使用が可能な狭義の小型武器(small arms)、兵士数名で運搬、使用が可能な軽兵器(light weapons)、 弾薬及び爆発物の3種類があり、一般的にはこれらを総称して広義の「小型武器」と呼称)。小型武器は、紛争を長期化、激化させるだけではなく、紛争終了後、国連などによる人道援助活動や復興開発を阻害し、紛争の再発、犯罪の増加などを助長する原因となっている。2020年に中満国連軍縮担当上級代表が、小型武器に関する国連事務総長の報告書について、安全保障理事会で行った説明にによれば、2010年から2015年までの間に生じた暴力による死亡者の半数(毎年約20万人)が小型武器の被害者である。
(1)2001年7月に国連小型武器会議が開催され「小型武器行動計画(POA: Programme of Action)」が採択された。同POAを指針として国際社会における取組が行われている。その後、同POAに基づいて作成された文書として「トレーシング国際文書(ITI: International Tracing Instrument)」及び「ブローカリング政府専門家会合報告書」がある。
(2)2005年に作成されたITIは、その正式名称(「国家が時宜を得た信頼できる方法で非合法小型武器を特定し追跡することを可能にするための国際文書」)が示すとおり、各国が輸入、製造時に小型武器への刻印を行うとともに、刻印などの小型武器に関わる情報を保存し、国際捜査などで必要な際にお互いに情報交換することにより非合法小型武器の追跡を効率的に行おうとするものである。
(3)非合法小型武器ブローカリング政府専門家会合が2007年にとりまとめた報告書は、法的規制が手薄な途上国などに仲介者(ブローカー)が移動して口利きなどの方法で武器の売手と買手を結びつけることによる非合法な武器の輸出入(非合法ブローカリング)を取り締まるために、ブローカリングの規制に関する国内法の要素(模範例)、国際協力の促進措置、勧告を含む行動志向の報告書である。
(4)POAのプロセスは、2006 年の履行検討会議では成果文書の作成に至らなかったが、その後の隔年会合において過去の実施状況を確認し、また今後の実施強化に向けた取組に関する報告書が順調に採択されている。2008年の会合では国際協力と支援、非合法ブローカリング、備蓄管理と余剰廃棄及びトレーシングに関する議論が行われ、2010年の会合では国際協力と支援、トレーシングの他、国境管理、フォローアップ・メカニズムなどに関する議論が行われた。特に2010年の会合におけるフォローアップ・メカニズムの議論では、隔年で行われる会合の他に6年サイクルで履行検討会議を開催することが有用とされ、また絞られた特定のテーマについての政府専門家会合の開催についても検討されることとなった。これを受けて、2011年には、小型武器の刻印・記録保持・追跡に関して、専門的見地から情報・意見交換するための専門家会合が開催された。
(5)2018年に開催された第3回履行検討会議では、POA及びITIの将来の履行に対する各国の強固な意思が改めて確認されたほか、取り組むべき優先課題として、国内法制度の一層の整備や履行を担当する職員の研修、小型武器の輸出入や国内における流通の管理の強化を通じた非合法市場への流出防止、各国が属する地域の特性を踏まえた地域協力や地域を超えた国家相互及び国際機関との協力及び支援、国別報告書の一層の提出促進による情報の共有と交換、小型武器問題の解決に向けた政策決定への女性の参加促進などが成果文書に盛り込まれた。
(6)2019年に公表された小型武器非合法取引に関する国連事務総長報告 (A/74/187)では、国別履行強化に向けて、POA及びITIに係る国別行動計画に基づき、小型武器管理に係る国別目標を提出することが提言された。
(7)2021年7月に開催されたPOA第7回隔年会合では、新興技術への対応、弾薬の扱い、ジェンダー及び他の関連国際枠組みとの相乗効果といった論点について、活発な議論が行われた。 
 
2-2 日本の取組
(1)日本は、小型武器問題が国際社会に提起されて以来、国連を中心とする枠組みを通じて、この問題について主導的な役割を果たしてきている。早くから、国連の枠組みの中で小型武器問題に取り組む重要性を認識し、1995年、国連で検討を開始するための国連総会決議を提出した。その後、日本のイニシアティブにより設置された政府専門家グループと政府専門家パネルにおける検討を経て2001年に国連小型武器会議が開催された。同会議は、国連が主催する軍縮関連国際会議としては1987年の第3回軍縮特別総会以来の国連イニシアティブであり、日本は、小型武器問題を国連の主要な取組に主流化する上で主導的な役割を果たした。また2018年には、第3回履行検討会議の副議長を務めた。
(2)日本は、南アフリカ及びコロンビアと共同で、小型武器の非合法な取引を根絶し、各国がPOAを十分かつ効果的に実施することの重要性を確認する小型武器非合法取引決議案を、毎年、国連総会に提出している。同決議案はコンセンサス又は圧倒的多数の支持を得て採択されてきている。また、POAの地域レベルにおける着実な履行のため、行動計画実施に関わる地域会合の開催を支援するとともに、小型武器により被害を受けた国における小型武器対策プロジェクトも積極的に実施してきている。
(3)2018年5月に発表されたグテーレス国連事務総長の軍縮アジェンダにおいて、「人命を救う軍縮」基金(Saving Lives Entity (SALIENT) fund)の設立が発表された。平和構築や開発支援の中で小型武器対策を行うことで、紛争予防及び平和の持続に向けてより効果的な取組を行うとの考えの下、国連内に新設された任意信託基金である。日本は、同基金に2.2億円(200万米ドル)を拠出し、同基金の活動を支援している。 

3 武器貿易条約(ATT)

3-1 国際社会の動き
(1)通常兵器の不正な取引は各国の安全保障、社会、経済及び人道状況に悪影響をもたらす。このため、1990年代後半から、通常兵器の移転を規制するための武器貿易条約の必要性が国際社会で認識されるようになった。
(2)2006年に、我が国、アルゼンチン、英国、ケニア、オーストラリア、コスタリカ及びフィンランドの7か国(以下原共同提案国)により共同で提出された国連総会決議案が採択され、武器貿易条約に関する検討が開始された。 四度の準備会合を経て、二度の国連会議で交渉が行われ、2013年4月2日に国連総会において条約が採択された。
(3)この条約は、通常兵器(戦車、装甲戦闘車両、大口径火砲システム、戦闘用航空機、攻撃ヘリコプター、軍艦、ミサイル及びその発射装置、小型武器及び軽兵器)の国際移転を規制するための国際的な基準を確立し、通常兵器の不正な取引などを防止することを目的としている。締約国が、この条約に基づき通常兵器の国内管理制度を確立し、国連安保理決議や自国が当事国である国際協定に基づく義務などに違反する場合は移転を許可しないことなどにより、国際社会における通常兵器の国際貿易の管理が強化され、国際社会の平和と安定に寄与するものである。条約は2014年12月に発効し、締約国は110か国、署名国は31か国である(2021年8月現在)。
(4)2015年8月のメキシコでの第1回締約国会議を始め、これまでに7回の締約国会議が開催され、3つの作業部会(条約履行、普遍化、透明性・報告)の常設や締約国及び署名国の条約履行を支援するための任意信託基金の設置などが合意されたほか、各締約国会議議長の主導により、ATTとSDGsの相互補完性、流用防止策、ジェンダー及びジェンダーに基づく暴力(GBV)などについて議論されてきた。 

3-2 日本の取組
(1)日本は、武器貿易条約の検討を開始する国連総会決議の原共同提案国の一つとして、国連における議論及び交渉を主導してきた。二度の国連会議において副議長国を務めるとともに、他の武器貿易条約推進国やNGOとも連携しつつ様々な提案を行い、異なる立場の国の調整役を果たすなど、条約案の作成及び採択に大きく貢献した。日本は、署名開放日である2013年6月3日に署名を行い、2014年5月9日に受諾書を国連に寄託し、アジア太平洋で最初の締約国となった。2017年9月にジュネーブで開催された第3回締約国会議において、髙見澤將林軍縮代表部大使(当時)が第4回締約国会議議長に選出され、2018年8月に東京で第4回締約国会議を開催するまでの間、議長として、SDGsとATTの相互補完性に関する合同パネルや、流用対策に係る専用パネルを主催した。
 同大使は、2017年9月から2019年8月まで普遍化作業部会の共同議長も務め、ATTを締結していないアジア太平洋諸国及び主要武器貿易国に対して早期の締結を働きかけてきた。また、共同議長として未締約国から受けた質問や意見に対する説明を普遍化を促進するための説明資料(ツールキット)及び新規締約国に向けた文書(ウェルカムパック)の二つの文書をまとめた。両文書は、第5回締約国会議において採択された(https://thearmstradetreaty.org/tools-and-guidelines.html)。その後も日本は、任意信託基金の案件選定委員会、財政事項を掌る管理委員会メンバー(第7回締約国会議まで)として、両委員会の議論・活動に貢献しているほか、任意信託基金には、2018年に300万米ドルの拠出を行っている。また、アジア太平洋地域の未締約国に対するラウンドテーブル会合を行い、条約普遍化の取組を継続している。2021年8~9月に行われた第7回締約国会議において、日本は第8回締約国会議の副議長に選出された。

4 信頼醸成措置(国連軍備登録制度及び国連軍事支出報告制度)

各国の軍備の公開性と透明性を向上させることで信頼醸成を図り、過度の軍備の蓄積を防止する取組として、国連の枠組みにおける国連軍備登録制度と国連軍事支出報告制度がある。

4-1 国連軍備登録制度
(1)この制度は、1991年の湾岸戦争においてイラクの過大な武器の蓄積が地域の不安定につながったという反省も踏まえ、日本が「湾岸危機後の中東の諸問題に対する当面の対策」を発表し、(a)主要武器輸出国に対する自粛と(b)通常兵器の国際取引の国連登録制度設立を呼びかけたことに端を発し、日本と当時の欧州共同体(EC)諸国が共同で国連総会決議案を作成し、同年成立させた「軍備の透明性」決議に基づき設置されたものである。通常兵器の国際的な移転を中心とする軍備の透明性を向上させ、それにより各国の信頼醸成、過度の軍備の蓄積の防止を図ることを目的とした画期的な取組である。
(2)この制度の下では、国連加盟国に対し、過剰な蓄積によって地域及び国際社会の状況を不安定化させる恐れがあると位置付けられた7カテゴリーの通常兵器(I 戦車、II 装甲戦闘車両、III 大口径火砲システム、IV  戦闘用航空機及び戦闘用無人航空機、V 攻撃用ヘリコプター、VI 軍用艦艇、VII ミサイル及びミサイル発射基)につき、報告年前年の輸出入に関する情報、具体的には1年間の輸出入量、その輸出入相手国などを予め定められた書式に記入し国連事務局に提出することとなっている。また各国は軍備保有、国内生産を通じた調達に関する情報、関連政策などのデータの提出を奨励されている。
(3)1994年以降3年毎に開催される政府専門家会合において、7カテゴリーの定義、スコープ、運営などの見直しが行われている。例えば2003年の会合では 「III 大口径火砲システム」の口径を100ミリから75ミリへ引き下げ、「VIII ミサイル及びミサイル発射基」にはサブカテゴリーとして携帯式地対空ミサイル(MANPADS)が追加された。さらに、小型武器の輸出入に関する追加情報を加盟国が自主的に提出することが勧告された。2006年の会合では「小型武器」登録のための書式(使用は任意)が作成されたほか、「VI 軍用艦艇」の敷居値が750トンから500トンに引き下げられた。2009年の会合では、小型武器を新たなカテゴリーとして報告対象とする提案が重点的に議論されたが合意に至らなかったことから、小型武器のカテゴリー化について各国の見解を求めることが勧告された。日本は小型武器のカテゴリー化に賛成する見解を2010年に提出した。その後の会合においても小型武器を新たなカテゴリーに含めることにつき議論されたが合意に至っていない。
(4)2016年の政府専門家会合では、7つのカテゴリーに小型武器を加えた「7プラス1方式」での報告の試行的な実施、カテゴリー4への「無人戦闘機(UCAV)」の追加、オンライン登録サイトを全ての国連公用語(現状は英語のみ)に改訂することなどが勧告された。さらに2019年の政府専門家会合では、登録制度の目的や意義についての啓発活動やオンライン登録ツールの活用などを通じて、登録制度への参加を促進することが勧告された。報告対象として、小型武器を第8の正規カテゴリーとすることは時期尚早であるとして見送られたが、報告対象とする小型武器の定義案について合意したほか、「7プラス1」方式を「試験的」ではなく任意の運用として継続することになった。また、信頼醸成措置の履行に向けて報告を活用していくことでも合意した。
(5)本制度には主要な武器輸出国が参加していることから、9割程度の国際武器移譲を網羅している。但し、毎年の登録数は減少傾向にあり、近年は60か国程度にとどまっており、今後本制度の一層の周知、参加促進を図ることが重要である。 日本は、本制度発足(1991年)以降、翌1992年から毎年登録を行うとともに、当初から本制度普及のため各国政府にデータを提出するよう働きかけを行ってきている。本制度強化のためのワークショップの開催支援、国別報告書のオンラインによる提出及び武器貿易関連の各種情報の検索などを可能とする「国連e-軍備登録制度」の構築に必要な資金の拠出などで貢献してきた。また、本制度の運用状況を検討するため原則3年ごとに開催されてきた政府専門家会合にほぼ毎回専門家を派遣しており、2019年会合では、ドイツと共に小型武器の定義を提案してコンセンサスを形成した。なお、武器貿易条約の締約国は、同条約の規定を実施するための国内的な管理制度の確立及び維持において、同条約の規定の対象となる兵器の定義を、国連軍備登録制度の定義よりも狭い範囲にすることはできないことが、同条約に定められている。

4-2 国連軍事支出報告制度
(1)国連軍事支出報告制度は、1980年の国連総会決議35/142Bにより設立され、1981年から実際の運用が開始された。同制度は、各国が国連に自国の軍事支出に関する情報を一定の様式に従って報告する制度であり、透明性向上、信頼醸成に貢献するものとなっている。
(2)国連軍事支出制度の報告対象は、(a)人件費やメンテナンス費用などの運営費用、(b)調達及び建設費用、(c)研究開発費用であり、各項目の内訳も報告される。
(3)日本は1982年に最初の報告を行い、1997年以降毎年報告している。本制度への 参加国数は2011年以降は平均約70か国 が提出している。発足から30年を経た本制度の運用状況を見直すために、2010年から2011年にかけて日本を含む15か国から成る政府専門家会合がそれぞれ開催され、本制度の信頼醸成措置としての有効性が確認されるとともに、報告様式の改訂などの改善策がとりまとめられた。なお、2017年にも、同専門家会合が開催され、改めて制度の有効性が確認された。