消極的安全保証(NSAs)

2021/10/5

1 定義

 消極的安全保証(NSAs:negative security assurances)とは、一般的に、核兵器国が非核兵器国に対し核兵器を使用しないと保証することをいう。一方、NSAsの他に積極的安全保証(PSAs:positive security assurances)という概念がある。PSAsは一般的に、非核兵器国が核兵器による攻撃または威嚇を受けた場合には支援を与えることを約束することをいう。

2 経緯

 核兵器不拡散条約(NPT)交渉過程で、非同盟運動(NAM)諸国を中心とする非核兵器国側が、NSAs及びPSAsをNPT条文に挿入するよう要求したが、核兵器国側はこれらをNPT条文に盛り込むことには応えず、1968年の国連安保理決議第255号でPSAsを表明した。その後、核兵器の使用及び威嚇に対し非核兵器国の安全が保証されるべきであるとの主張の高まりを受け、1978年の第1回国連軍縮特別総会において、5核兵器国がそれぞれNSAsに関する一方的な宣言を行った。1995年NPT運用検討・延長会議に先立つ1995年4月には、核兵器国は、従来行ってきた一方的宣言をほぼそのままの形で改めて宣言するとともに、国連安保理は、それら宣言への留意を含む非核兵器国の安全の保証(PSAs及びNSAs)に関する国連安保理決議第 984号を採択した。これは同運用検討・延長会議に向けて、NAM諸国が、NPT延長の条件として核兵器国による非核兵器国への安全の保証に関する法的拘束力のある措置を要求したことが背景にある。
 5核兵器国が行った上記宣言で、米国、英国、フランス及びロシアは、NPTを締結している非核兵器国が自国(核兵器国)又は同盟国に対してその他の核兵器国との協力又は同盟関係の下で侵略・攻撃する場合を除いて、非核兵器国に対して核兵器を使用しないことを再確認する旨の宣言を行った。他方、中国は、いかなる時も非核兵器国又は非核兵器地帯に対して、核兵器を使用し又は使用するとの威嚇を行わないことを約束する旨の宣言を行った。
 同年に開催されたNPT運用検討・延長会議では、「消極的及び積極的安全保証に関する全会一致で採択された国連安保理決議第984号及び核兵器国の宣言に留意し、核兵器の使用又は使用の威嚇に対して非核兵器国への安全を保証するため更なる措置を検討するべき。これらの措置は国際的に法的拘束力のある文書の形をとることが可能。」との文言を含む「原則と目標」(第8項)が採択された。その後、2000年運用検討会議で採択された最終文書においては、「会議は、5核兵器国によるNPT上の非核兵器国に対する法的拘束力のある安全の保証は核不拡散体制を強化することに合意する。」との文言が盛り込まれた。
 2010年4月には、米国が「核態勢見直し」において、NPT締約国でありNPT上の義務を遵守している非核兵器国に対して、核兵器を使用せず、また、その使用の威嚇をしないとする強化されたNSAsを宣言した。ただし、バイオ技術の急速な進展を踏まえ、生物兵器の今後の進展によっては、かかるNSAsを調整する権利を留保した(英国も2021年3月に発表した「競争的時代におけるグローバル・ブリテン:安全保障、防衛、開発及び外交政策の統合的見直し」において、米国とほぼ同様のNSAsを宣言している。)。同年5月の2010年NPT運用検討会議で採択された最終文書においては、「会議は、(中略)核不拡散体制を強化する核兵器国による明確かつ法的拘束力のある安全の保証を受領するとの非核兵器国の正統な利益を再確認し、認識する。」との文言が盛り込まれた。また、2018年5月の米国の「核態勢見直し」は、NSAsについては2010年「核態勢見直し」のラインを踏襲しつつも、非核戦略攻撃技術の発展や拡散等に応じて、NSAsを調整する権利を留保する旨言及している。

3 NSAsをめぐる議論

 1994年までジュネーブ軍縮会議(CD)において毎年NSAsに関する特別委員会が設けられてきたが、特段の成果には至らなかった。1995年以降は特別委員会の設置はなく、通常のCD会期内において主要議題の1つとして取り上げられている。
 NSAsをめぐる議論には、法的拘束力を有するNSAsとすべきか否か、法的拘束力を有するNSAsとする場合、多国間条約等を通じたグローバルなNSAsによって直ちに全ての非核兵器国にNSAsを供与するか、あるいは非核兵器地帯条約を通じた地域的なNSAsの積み重ねによって法的拘束力のあるNSAsが供与される国を増やしていくのかいずれのアプローチが望ましいか、NSAsは無条件とすべきか条件付きとすべきか、NPT上の義務に違反している国に対してNSAsを供与すべきか否か、NPTに加入せずに核兵器を保している国がNSAsを供与する側になると事実上の核兵器国として認めてしまうことにならないか、どのフォーラムでNSAsは議論されるべきか(NPTに加入せずに核兵器を保有している国も参加するCDが良いのか、核兵器保有を禁止された非核兵器国への代償としてNPTで議論すべきか)等の幅広い論点がある。2018年のCDにおいては、NSAsを含む5つのテーマについてそれぞれ補助機関を設置した上で議論されたが、NSAsについてのみ最終報告書に合意できなかった。

4 日本の立場

 1970年にNPT署名の際に行った演説において、日本は、核兵器国は非核兵器国に対して核兵器の使用又は使用の威嚇を行ってはならないことを強調した。日本として、この立場は現在も変わっておらず、NSAsの概念を基本的に支持しており、また、核兵器のない世界を実現するための第一歩となる具体的な手段として注目している。その際、当然ながら、長期的課題である核兵器のない世界の実現を目指すに当たり、日本の安全保障及び国際的な安全保障を損なうことはあってはならない。
 NSAsは核兵器を保有しない非核兵器国としての正当な関心事項であり、日本は、核兵器国はNPT上の義務を遵守している非核兵器国に対して核兵器を使用しないとの強化されたNSAsを供与するよう求めている。この観点で、日本は、米国及び英国によるこうした強化されたNSAsの供与を評価している。さらに、核兵器国を含む全ての関係国の同意等適切な条件の下で創設された非核兵器地帯は、法的拘束力を有するNSAsを供与するための実質的な措置と考えている。
 なお、日本としては、2010年NPT運用検討会議最終文書の行動5にあるとおり、核兵器を保有する全ての国は、国際社会の安定と平和を促進し、各国の安全保障を損なわない形で、それぞれの安全保障戦略における核兵器の役割を低減させることが重要であると考える。その観点で、NSAsは核兵器の役割低減に貢献するものと位置づけられる。
 このようなNSAsに対する日本の立場は、最近では、2020年NPT運用検討プロセスにおける作業文書(2018年の第2回準備委員会に提出したNSAsに関するNPDI共同作業文書等)やCDにおけるステートメントなど、様々な機会に表明してきている。2020年及び2021年のCDでは、NSAを含むCDの主要議題についてそれぞれ補助機関を設置することを含む作業計画案等が議論されたが、議論の結果、同作業計画案等は合意に至らず、補助機関も設置されなかったが2021年6月8日に行われたCD公式本会議では、CDにおける議題4(非核兵器国に対する安全保障の供与(NSA)に向けた効果的な国際的合意)の下、NSAsについての分野別討論が行われた。