軍縮・不拡散とジェンダー

令和3年10月5日

1 国連におけるジェンダー

 ジェンダー主流化についての議論が、軍縮・不拡散の文脈でも盛んである。2018年5月にグテーレス国連事務総長が発表した軍縮アジェンダでは、武器の問題にも性別による違いがあることが紹介されている。それによれば、殺人や武力紛争等による死者の84パーセントが男性(2016年統計)であるのに対し、女性は小型武器を使用したドメスティック・バイオレンスなどの性別に基づく暴力の犠牲になることの方が多い。また、小型武器の所有者は男性が圧倒的に多く、武器による暴力の多くが若年男性によるものであることが紹介されている。
 武器から受ける影響が男女によって違うことから、これらに適切に対応できるよう、軍縮・不拡散分野の意思決定プロセスに男女が平等に参加することが重視されており、グテーレス国連事務総長は軍縮アジェンダにおいて、「軍縮と国際安全保障に関する意思決定プロセスにおける女性の完全かつ平等な参加」を呼びかけている。
 軍縮アジェンダ実施のための行動計画においては、40あるアクションのうち2つが「平等、完全かつ効果的な女性の参画の確保」に充てられ、その実施のために以下の5点が推進されている。すなわち、(1)国連が開催する会議や国連関連組織への男女平等な参画に向けた取組、(2)一方の性別のみが出席する委員会や行事への国連軍縮部の不参加又は問題提起、(3)軍縮関連会議への出席者の男女別データの集計・公表、(4)国連軍縮部及び地域センターによる女性の有意義な参加を促す能力構築支援事業の履行、(5)国連軍縮研究所によるジェンダーと軍縮に関する情報発信である。これら2つのアクションの主導国はスウェーデン、スペイン及びカナダであり、サポーター機関は欧州連合である。
 2015年9月にカナダ、アイルランド、ナミビア、国連軍縮研究所(UNIDIR)が中心となり、軍縮におけるジェンダーに関する対話や関連する行動を推進する軍縮インパクトグループ(International Gender Champions Disarmament Impact Group)が設立されたことも軍縮におけるジェンダー主流化の議論が進む要因となった。
 2018年の国連総会第一委員会では、女性の平等な参画、性別の違いによる武器被害等の表現が、6決議案に初めて記載された結果、これまでで最多となる17決議案(全決議案の約4分の1)に盛り込まれることとなった。2019年の同委員会においても、同数の決議案にジェンダーに関連する表現が盛り込まれたほか、ジェンダーに関する共同ステートメントには日本を含む80か国・1機関が参加し、前年に比べ30か国・1機関増えた。
 こうした動きの中、ジェンダー主流化について、各国固有の社会的規範に対して一方的に変化を強制する圧力であるとして反発する国も存在するが、会議参加者の男女構成比率や会議における発言者の男女バランス等を考慮する各国の機運は高まっている。

2 条約体におけるジェンダー

 また、実際の取組において、性別への配慮も求められている。例えば、2014年に発効した武器貿易条約は、第7条4項において、締約国は通常兵器の輸出許可に際し、輸出する兵器が「ジェンダーに基づく重大な暴力行為又は女性及び児童に対する重大な暴力行為を行い、又は助長するために使用される危険性を考慮する」ことを定めている。これは、武器の輸出を検討する際に、ジェンダーに基づく重大な暴力に繋がるリスクがないかを検討することを明記した最初の国際条約である。また、同条約の第5回締約国会議(2019年8月)において、締約国会議におけるジェンダー・バランスを考慮した代表者の選定や参加の促進、武器による暴力とジェンダーの関係についての理解促進等について、議長が提出した決議案が採択された。軍縮会議においても、2020年会期中に議長を務めたオーストラリアが、手続規則をジェンダー中立的な文言に修正することを提案したが、採択に至らなかった。

3 日本の取組

 日本は、軍縮・不拡散を含む平和・安全保障分野において、ジェンダー主流化に努めており、全ての関係当事者に対し、女性の参画を拡大し、国連の平和・安全保障活動のあらゆる面においてジェンダーの視点を採用するよう要請する女性・平和・安全保障に関する国連安保理決議第1325号の履行を支持し、女性・平和・安全保障に関する行動計画を2015年に策定し、2019年に改訂した。また、実施状況のモニタリング及び外部有識者による評価も実施している。さらに日本は、G7の枠組で、スリランカにおける女性・平和・安全保障に関する行動計画の策定やその実施も支援している。また、国連総会第一委員会においてジェンダー共同ステートメントに参画し、国連における各種政府専門家会合に女性専門家を積極的に派遣するなど、ジェンダー主流化に取り組んでいる。我が国が毎年国連総会に提出している核兵器廃絶決議においても、2018年以降、軍縮不拡散分野におけるジェンダーの視点の重要性に言及している。