宇宙空間における軍事・安全保障面での制度的枠組み

2021/10/6

1 総論

 国際社会は、宇宙空間における軍事利用を禁止又は制限する幾つかの国際的な枠組みを既に作成してきている。例えば、1967年に発効した月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約(通称:宇宙条約、我が国は1967年に批准)は、月その他の天体を含む宇宙空間における活動について、「国際の平和及び安全の維持並びに国際間の協力及び理解の促進のために」行わなければならないとし、「核兵器及び他の種類の大量破壊兵器を運ぶ物体を地球を回る軌道に乗せ」ること、「これらの兵器を天体に設置」すること並びに「他のいかなる方法によってもこれらの兵器を宇宙空間に配置」することを禁止している。月その他の天体については、さらに、「軍事基地、軍事施設及び防備施設の設置、あらゆる型の兵器の実験並びに軍事演習の実施」を禁止している。
 宇宙条約以外では、1963年に発効した部分的核実験禁止条約(我が国は1964年に批准)が、宇宙空間における核実験を禁止している。1978年に発効した環境改変技術禁止条約(我が国は1982年に批准)は、宇宙空間の構造に変更を加える技術の軍事的使用その他の敵対的使用を禁止している。
 その後も宇宙活動に関する軍事・安全保障面での国際的議論やルール作りの試みは、特に宇宙における軍備競争の防止という観点から、ジュネーブ軍縮会議、国連総会第一委員会等の場で続けられている。
 また近年、宇宙利用の多様化及び宇宙活動国の増加、更に民間企業の参入に伴って宇宙空間の混雑化が進むとともに、衛星破壊(ASAT)実験や人工衛星同士の衝突等によるスペースデブリが増加するなど、持続的かつ安定的な宇宙利用に対するリスクが増大している。このような環境の変化を踏まえ、国際社会では宇宙活動に関する国際的なルール作りが活発化しており、特に平和利用の分野においては、2019年6月、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)において、9年間にわたる議論を経て「宇宙活動の長期的持続可能性ガイドライン」が採択されている。同様の国際環境の変化を受けて、安全保障面でも、新たな国際的取組みに向けた動きが現れている。

2 宇宙空間における軍備競争の防止(PAROS)

2-1 ジュネーブ軍縮会議(CD)におけるPAROSに関する議論
 1978年の第1回国連軍縮特別総会の最終文書において、「宇宙空間における軍備競争の防止(PAROS: Prevention of Arms Race in Outer Space)」のために適切な行動が必要であるとの表現が初めて登場した。1981年の第36回国連総会では、東西両陣営から2種類のPAROS関連決議案が提出され、採択された。西側の決議(A/RES/36/97)は対衛星システムの禁止に向けた効率的で検証可能な合意に焦点を当てた交渉をCDに求める一方、東側の決議(A/RES/36/99)は宇宙空間においてあらゆる兵器の配置を禁止するための条約交渉に焦点を当てた議論をCDに求める内容であった。その後も、PAROSについて、法的拘束力を伴う新たな文書ではなく既存の合意の範囲内で信頼醸成措置を指向する西側諸国と、法的拘束力を伴った新たな国際約束を指向する東側の対立構造が、基本的に維持された。
 CDでは、1982年にPAROSが議題の1つに加えられ、1985年から1994年までPAROSに関する特別委員会が設置され、宇宙条約を補完する新たな条約の作成の必要性、衛星攻撃兵器、対弾道ミサイル・システムの評価等につき議論が行われた。しかし、実質的な成果は得られず、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)交渉の開始に向けたアドホック委員会設置のための議論と関連付けられ、1995年以降はPAROSに関する特別委員会は設置されていない。
 1990年代後半以来、米国のミサイル防衛政策を懸念する中国がPAROSを重視する姿勢を示している。2002年、中国はロシアと共同で宇宙空間への兵器配備及び宇宙空間中の物体への武力行使の禁止に関する条約草案を提示し、これを基に2008年、両国は宇宙空間への兵器の配置を禁止することを含む「宇宙空間における兵器配置防止条約(PPWT)」案をCDに提出した(2014年に改訂版を提出。)。一方、西側諸国は、同条約案については、兵器の定義の解釈が困難、検証が困難、地上ベースの衛星破壊兵器(ASAT)を禁止する項目がないなどの理由から同案に基づく交渉開始には反対し、まずは透明性及び信頼醸成措置から始めるべきとの立場を採っている。
 CDは長年にわたって、軍縮条約の交渉を行うための作業計画を採択できずにいたが、2009年には、FMCT交渉のための作業部会と共に、PAROSについて実質的議論を行うための作業部会を設置することを含む作業計画をコンセンサスで採択した。しかし、FMCT交渉をめぐり、作業計画を実施するための作業日程等についての合意が得られず、結局作業部会の設置にまでは至らなかった。
 その後現在に至るまでCDでは作業計画が採択されていないが、特に、2018年には、CDの各議題について話し合う5つの補助機関が設置され、PAROSについても補助機関3の下で専門家におけるプレゼンテーションに加えて各国の立場が表明され、議論の結果は報告書(CD/2140)にまとめられた(なお、2017年以降の動きについては、軍縮会議の項を参照。)。
 
2-2 国連における取組
(1)国連総会第一委員会における議論
国連においては、毎年、宇宙空間における軍備競争の防止に関連した以下の決議案が議論、採択されている。

ア 宇宙空間における軍備競争の防止(PAROS)決議:
 軍縮委員会(のちの軍縮会議)に対し、PAROSを主要議題として扱うこと、PAROSに関する特別委員会を設置することなどを要請するため、エジプト、スリランカがロシア、インド、パキスタン等と共に主導し、1982年以降毎年提出され可決されている。我が国は、宇宙空間における軍備競争は防止されるべきであるとの観点から毎年賛成している。
 なお、第72回国連総会(2017年)において、宇宙空間における兵器配置防止条約(PPWT)案に関する議論を進めようとするロシア及び中国が提案した決議「宇宙空間における軍備競争防止のための更なる実質的な措置(PAROS-GGE決議))(A/RES/72/250))によって宇宙空間における兵器の配置の防止を含む宇宙空間における軍備競争を防止するための法的拘束力のある文書の実質的な要素について議論するための政府専門家会合(PAROS-GGE)が設置された。同GGEは、25か国の専門家から構成され、2018年8月及び2019年3月の2回の会合(それぞれ10日間)が開催された(我が国からは、青木節子慶應義塾大学教授が出席した。)ものの、最終的にはコンセンサスに至らず、勧告案を含む報告書が作成されることはなかった。

イ 宇宙に最初に兵器を配置しない(NFP)決議:
 CDにおけるPPWTを基礎とした実質的な議論の早期開始を呼びかけるとともに、同条約成立までの間、宇宙空間に最初に兵器を配置しないことを呼びかけるもの。第69回総会(2014年)にロシアが中国、インドと共に提出し、以降毎年提出されている。

ウ 宇宙活動に関する透明性及び信頼醸成(TCBM)措置:
 第60回総会(2005年)においてロシアが中国等と共に提出した決議。以降、毎年、提出、決議されている。この決議により、2012年にはTCBMに関する研究を行うための政府専門家会合が設置されている。 

(2)最近の国連総会第一委員会における動き
 宇宙活動の高度化、宇宙空間の混雑化、政府と民間企業との間の、又は軍事と民生との間の区別が困難な宇宙利用とそれに伴うリスクの増大といった状況の変化を踏まえて、第74回総会(2019-2020年)では、軍縮・国際安全保障に関する議論を行う第一委員会と宇宙の平和利用等について議論する第四委員会とが合同で宇宙に関する議論を行った。この場で、英国を中心とした有志国(我が国を含む)は、近年、宇宙利用がますます増大している中で、今後も宇宙を持続的に活用していくためには、宇宙空間におけるリスク低減が不可欠であり、そのためにも、まずは発射、最低安全基準、デブリ低減措置、宇宙状況監視、軌道上サービス等に関し、宇宙空間における責任ある行動の規範作りが重要、共通理解の促進、透明性・信頼醸成のための議論を更に進めることが肝要との共同ステートメントを行った。また、第75回総会(2020年)では、軍縮・国際安全保障に関する議論を行う第一委員会に、宇宙空間における責任ある行動の在り方に関する議論を求める宇宙関連決議案(「責任ある行動の規範、ルール及び原則を通じた宇宙空間における脅威の削減」)を我が国を含む22か国が共同で提出し、150か国の賛成を得て採択された(A/RES/75/36)。同決議に基づいて、国連事務総長は、国連加盟国に対して見解を求め(我が国も4月29日に提出した。)、これらを取りまとめて報告書(A/76/77)を提出した。これらに基づく今後の議論が注目される。